鉄道沿線の強風箇所を抽出する方法

規制用風速計を配置する箇所を最適化する

1.はじめに

通常、強風時の運転規制に用いられる規制用風速計は、当該の規制区間を代表する強風箇所に設置されます。そして、「規制区間内で生じる最も強い風は規制用風速計で観測されている」ことが、運転規制を行うことが強風時に列車の安全を確保する根拠となっています。しかしながら、強風をもたらす気象擾乱(刻々と変化する大気の小さな乱れ)の種類や、地形や市街地化といった条件の違いなどによって、必ずしも規制区間内で一様に強風が吹くとは限りません。そのため、規制区間を代表する強風箇所を客観的に抽出するのは容易ではありません。そこで現在、規制用風速計を配置する箇所が最適化されることを目的として、数値解析技術を用いて線路上の強風箇所を抽出する方法の開発に取り組んでいます。

2.線路上の強風箇所の抽出例

まず、過去に発生した台風などによる強風事例を対象に、天気予報にも用いられている気象の数値計算技術を行いて、風速の分布を線路上も含め面的に評価します(図1)。一方で、強風をもたらす台風や低気圧などは、そのすべてが同じような進路や強さで日本付近を通過するとは限りません。すなわち、図1で示した面的な風速の分布が、常にこの地域で当てはまるわけではありません。そこで、強風事例を数多く集め、それぞれの事例で得られる風速分布を重ね合わせることで、個別の事例の計算結果に偏らないように強風箇所の抽出を行います(図2)。この図2では50事例分の強風事例に対する風速の分布と統計的な手法とを用いて、強風の発生しやすさとして瞬間風速30m/s以上の風が何年に1度の割合で発生するか(再現期間)を面的にマッピングしています。

なお、気象の数値計算を行う対象地域と同地域にて、数値計算の対象とした強風事例の収集期間と同期間に得られた9基の風速計による実測データを用いて再現期間を求めました。求めた再現期間のマップ(図2)上で風速計が位置する計算格子における数値計算結果と実測データとを比較したところ、両者の再現期間は概ね一致していることを確認しました(図3)。

3.本成果の活用

規制用風速計が現在設置されている箇所は、規制区間の中でより強風が吹きやすい箇所かどうか、あるいは今まで強風規制を行っておらず規制用風速計を設置していない区間にて、強風が吹きやすく、運転規制や風監視が必要な箇所はないか、といった検討を行う際、図2に示したマップを活用することで、客観的で効果的な検討が可能であると考えます。

参考文献

  1. 荒木啓司:数値計算を用いて強風箇所を抽出する,JREA,Vol.65,No.1,pp.21-24,2022