線路構造物の影響を考慮した規制用風速計の取付け方法

1.はじめに

強風時の運転規制は、鉄道沿線に設置された規制用風速計で観測される風速値に基づいて行われています。規制用風速計は盛土や橋梁などの線路構造物に隣接して取り付けられることが多いですが、風の流れは線路構造物により乱され、その周囲には風速が増加または減少する領域や、乱れ(不規則な変動)の強い領域が現れます。そのため、規制用風速計が線路構造物に対してどのような位置に取り付けられるかによっては、観測される風速値が線路構造物の影響を強く受け、運転規制に用いるべき規制区間を代表しうる風速値とは異なる可能性があります。

そこで、盛土や高架橋などの線路構造物が、風速計の設置箇所で風速にどのような影響を及ぼすかを調べました。

2.線路構造物が風観測値に及ぼす影響の評価

強風時の運転規制は瞬間風速で行われていますので、瞬間的な風速値が線路構造物の影響をどの程度受けるのかを把握する目的で風洞実験と現地での風観測を行いました。風洞試験では平均的な風速とその標準偏差を求めました。また、現地観測では平均的な風速と標準偏差から、瞬間風速の最大値に変換するための係数を求めました。これらを組み合わせて、線路構造物の有無によって瞬間風速の最大値(最大瞬間風速)がどの程度増加/減少するかを評価しました(図1)。

高架橋周りの風速分布の例を図2に示します。この図は、構造物がない状態での最大瞬間風速を1とした場合の、それぞれの場所における最大瞬間風速値の比を示したものです。例えば、この値が1.1であれば構造物の影響で最大瞬間風速が1.1倍の値になりうるということです。この図をみると、高架橋の風上側ではレールからの高さによらず、ほぼ同じ風速値を示すことが分かります。その一方で、高架橋の風下側ではレールからの高さにより観測される風速値に違いが生じ、レールからの高さが小さい場所でより大きく、風速が1.2倍以上(20%以上の増速)になる可能性があることが分かります。

3.本知見の活用

図2に例示したような線路構造物周りの風速分布を用いることで、可能な限り線路構造物の影響を受けず規制区間を代表しうる風速を観測できる風速計の取付け位置を検討することができます。高架橋の場合、遮風体の厚みをHとすると遮風体の上端から風速計の可動部までの高さを1H以上確保することを推奨しています(図3)。

参考文献

  1. 荒木啓司、今井俊昭、種本勝二、鈴木実:構造物周りの風速計位置が観測値に及ぼす影響の評価、鉄道総研報告、第25巻、第7号、pp.43-48、2011.07