架線・パンタグラフ系の3次元運動シミュレーション

1.はじめに

有限要素法(FEM)に基づく架線・パンタグラフ系の3次元運動シミュレーション手法を開発しました。本手法では、架線およびパンタグラフを3次元有限要素に基づきモデル化しすることで、架線の3次元的な配置やパンタグラフの幾何学的形状を考慮したシミュレーションを実行することが可能です。

2.架線モデル

架線モデルは3次元有限要素モデルとし、架線を構成するトロリ線などの線条や、ハンガなどの架線金具を曲げ変形や伸縮、ねじれを考慮可能なはり要素に分割して表現します(図1)。この架線モデルの特徴は次のとおりです。
・曲線区間や勾配区間を含む任意線形の線路上に架設が可能
・わたり区間など、複数の架線がある区間を考慮可能
・ハンガ浮きを考慮可能
・線膨張係数を与えて線条の伸縮を計算することで、気温変化に伴う架線構造の変化を再現可能
・横風による線路直角方向へのはらみを再現可能

3.パンタグラフモデル

パンタグラフも架線と同様に、各部材を3次元のはり要素でモデル化することでパンタグラフ全体のモデルを構築します。ただし、パンタグラフの場合は下枠と上枠間等にリンク機構があることから、リンク機構を再現可能なモデル化を行います(図2)。また、パンタグラフの舟体は、舟体を支える部材(図2では天井管)に対して一定量以上の変位が生じないように、ガイドやストッパなどによって拘束されていますので、このような特性を考慮できるように非線形ばねを挿入しています。

4.解析例

本シミュレーション手法による解析例として、わたり区間走行時のシミュレーション結果を示します。計算条件は以下のとおりです。
・本線の軌道は直線とし、側線の軌道は分岐付近で曲線半径約930mの曲線としました。
・本線・側線共に架線をシンプル架線としました。
・わたり線は交差わたりとし本線の起点から120m付近に交差箇所を設けました。
・本線と側線のトロリ線の交差箇所に交差金具を模擬したばねを挿入し双方を接続しました。
・わたり線のトロリ線は本線のトロリ線よりも60mm上方に架設します。
・新幹線用パンタグラフが側線から本線に30km/hで進入する場合と、本線を260km/hで走行する解析を行いました。

線路の軌道中心線と架線の静構造計算結果を図3~図5に示します。
側線から本線に30km/hで進入したときの計算結果を図6、図7および動画1に示します。本線を260km/hで走行したときの計算結果を動画2に示します。

このように、架線の三次元配置や、パンタグラフの三次元形状を考慮した計算を行うことで、わたり区間やオーバーラップ構成の改良や、高低差管理値の策定、わたり線で生じた事故の原因究明などに活用できると考えられます。


動画1 わたり線において本線を通過(260km/h)

※上記の動画は外部の動画サイトの埋め込みリンクです。


動画2 わたり線において側線から本線に進入(30km/h)

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動画3 一般区間を320km/hで走行(全体)

※上記の動画は外部の動画サイトの埋め込みリンクです。


動画4 一般区間を320km/hで走行(舟体拡大)

※上記の動画は外部の動画サイトの埋め込みリンクです。

参考文献

  1. 池田充:有限要素法に基づく架線・パンタグラフ系の3次元運動シミュレーション、鉄道総研報告、第26巻、第8号、pp.11-16、2012.08
  2. 小山達弥、長尾恭平、池田充:任意線形に対応した架線およびパンタグラフモデルの開発、鉄道総研報告、Vol.32、No.6、pp.5-10、2018
  3. 小山達弥、長尾恭平、池田充:温度変化に伴う静的構造変化を考慮した架線・パンタグラフシミュレーション、鉄道総研報告、Vol.33、No.8、pp.5-10、2019
  4. 小山達弥、長尾恭平、池田充:架線・パンタグラフの三次元シミュレーション、鉄道総研報告、Vol.34、No.9、pp.5-10、2020