電車線設備の3次元ステレオ計測法
1.はじめに
列車通過時にはパンタグラフによる押し上げを主要因として、電車線に振動が生じます。この振動の測定が新線区開業時の安全確認などの場面で求められることがあります。一般的な測定手法は、測定対象の線条に変位センサや加速度センサを取り付ける方法です。しかし、測定機器の仮設・撤去のために停電作業や線路内立ち入りが必要となる、架線とパンタグラフのしゅう動部近傍への仮設となるために保安上の問題から長期の仮設に向かない、といった欠点があります。そこで、線路外から電車線設備の振動を2台1組のカメラで動画撮影し、取得した画像データを解析することによって電車線設備の3次元振動を測定する手法を開発しました。
2.測定手法
図1に示すように、線路外から2台のカメラでトロリ線上の金具等の振動を撮影することで測定対象とする金具等の3次元振動を測定する場面を想定します。現地での測定手順を簡単に以下に示します。
① 測定対象が画角に収まるように2台のカメラの設置位置を決めます。
② 2台のカメラで同時にキャリブレーションボード※を撮影します。このとき、2台のカメラの画角に収まる範囲内でボードの角度・位置を変化させ、複数のサンプルを取得します。
※チェスボードのような寸法既知の特定のパターンが印刷された板
③ ②で取得したサンプル画像を用いて、実世界の空間上の座標とカメラのレンズ上に固定された座標の位置関係(外部パラメータ)を求めます。
④ 測定対象を2台のカメラで同時に動画撮影します。
⑤ デジタル画像相関法によって、各カメラで撮影した動画上で測定対象点を追跡し、画像素子上での測定対象点の平面振動の時刻歴をそれぞれ求めます。
⑥ 撮像素子上の座標とレンズ上の座標とを関係付けるパラメータ(内部パラメータ)と③で求めた外部パラメータを用いて、2つのカメラの画像素子上の平面振動データを変換し、3次元の振動データを導出します。
3.測定例
図2のような実際のフィールドに本手法を適用し、沿線から高架上の電車線のハンガイヤーの振動を測定した結果を図3に示します。パンタグラフ通過時のハンガイヤーの押し上がりの様子や電柱振動に起因する線路方向振動が捉えられています。実際のフィールドとは別の電車線設備における測定試験(鉄道総研内で実施)では、本手法により良好な精度で3次元測定ができていることを確認しています。
このように、線路沿線から電車線各部の振動を計測することができます。電車線に直接センサを設置して振動測定をする場合には、電柱や電柱に取り付けられている大型の金具に測定器やバッテリを取り付けることが一般的です。電柱から離れた箇所を測定する場合には測定点から電柱までの配線を要するという安全上の課題がありました。本手法を活用することで、このような課題を回避することも可能です。
参考文献
- 長尾恭平、他:ステレオカメラによる3次元電車線振動測定手法の開発、第31回鉄道技術連合シンポジウム(J-RAIL2024)
- 松岡弘大、他:ノンターゲット光学式測定による桁たわみ形状測定の精度検証と適用性検討、土木学会論文集A2(応用力学)、74巻2号、pp. I_715-I_726、2018