新幹線用パンタグラフの空力音低減策の開発

1.はじめに

新幹線の更なる高速化の実現に向け、大型低騒音風洞や空気流シミュレータを活用したパンタグラフの空力音低減策の開発を行っています。これまでに、主要な空力音源である舟体・舟支え部(図1)に着目した空力音低減策を提案しています。

2.多分割平滑化舟体

舟体の空力音低減においては、断面形状を流線形に近い形状として流れの剥離を防ぎ、空力音源となる渦の生成を抑制することが有効です。一方で、揚力特性の安定化もまた舟体の重要な性能要件であり、これら相反する空力的な性能を両立させる断面形状を選定することは容易ではありません。また、舟体には良好な集電性能を実現する追従機構を実装する必要があります。そこで、過去に最適化手法を用いて提案した空力音の低減と揚力特性の安定化を両立する断面形状に基づいて、新しい追従機構を実装した多分割平滑化舟体を開発しました(図2)。

3.改良舟支えおよび金属多孔質材付き頂点カバー

舟体・舟支え部の空力音低減においては、舟体の形状改良だけではなく、舟体と舟支え部の流れの干渉を緩和することもまた重要です。そこで、舟支え部の空力音低減策として改良舟支え(図3)、および金属多孔質材付き頂点カバー(図4)を開発しました。改良舟支えについては、舟体を上流側に移設することで流れの干渉に伴う渦の生成を抑制することができます。また、金属多孔質材付き頂点カバーについては、表面に連続気孔を有する多孔質材を適用することで、多孔質材表面における流れの流入出による整流作用によって渦の生成を抑制することができます。

4.空力音低減効果

今回開発した多分割平滑化舟体、改良舟支え、金属多孔質材付き頂点カバーの3つの対策を組み合わせることで、現用のパンタグラフに対して空力音を2.7dB低減できることを風洞試験において確認しました(図5、図6)。

参考文献

  1. 光用剛、佐藤祐一、臼田隆之、山崎展博、宇田東樹、若林雄介:舟体・舟支え部の形状改良によるパンタグラフの空力音低減、鉄道総研報告、Vol.31、No.4、pp.5-10、2017
  2. 臼田隆之、光用剛、長尾恭平、久保田喜雄、若林雄介:多分割舟体による接触性能向上手法、鉄道総研報告、Vol.33、No.6、pp.41-46、2019
  3. 光用剛、臼田隆之、平川裕雅、磯野達志、長尾恭平、若林雄介:平滑化舟体と舟支え部の改良によるパンタグラフの空力音低減、鉄道総研報告、Vol.34、No.8、pp.11-16、2020
  4. 臼田隆之、小林樹幸、山下義隆、光用剛、長尾恭平、若林雄介:多分割舟体の追従機構と揚力補償手法、鉄道総研報告、Vol.34、No.8、pp.5-10、2020