在来線パンタグラフの横風揚力特性に着目した割り込み事故防止策

1.はじめに

発生頻度は低いものの、強風時に割り込み事故(図1)が発生することがあります。その要因として、パンタグラフの横風揚力特性に着目し、横風を受けた場合の揚力増加メカニズムを解明するとともに、割り込み事故の防止策を提案しました。

2.風洞試験による横風揚力特性の把握

列車が走行中に横風を受けた場合、屋根上のパンタグラフは車両肩部によって吹き上げられた流れにさらされます(図2)。この状態を風洞試験で模擬し、様々な横風風速と側方からの吹上角(横吹上角)を設定して、パンタグラフの揚力特性を把握しました(図3)。その結果、横風風速と横吹上角の組み合わせによっては、本検討で限界値として試算した130Nを超える揚力が作用することがわかりました(図4)。

3.流れのシミュレーションによるメカニズム解明と対策提案

流れのシミュレーションを用いて、横風によるパンタグラフの揚力増加メカニズムを検討しました。その結果、横風による揚力増加は、斜め下方からの吹上流れによって舟体(パンタグラフの最上部に位置する棒状部材)が押し上げられる作用だけでなく、舟体上面に発生する強い斜め渦によって舟体が上方に引っ張られる作用が複合して生じていることを解明しました(図5)。その対策として、舟体にスリット状の開口部を設ける対策を提案した結果、開口部を下方から上方に抜ける流れが生じて斜め渦の発生が抑制され、揚力の発生要因となる舟体上下面の圧力差を緩和できることを確認しました(図6)。

4.風洞試験による対策効果の確認

開口部を設ける対策の効果を風洞試験で確認した結果、通常走行時の揚力には影響を及ぼすことなく、横風揚力を効果的に低減できることを確認しました(図7)。この対策により、強風時の割り込み事故の発生確率を低減できると考えています。

参考文献

  1. 光用剛、天野佑基、阿部巧、小林樹幸、中出孝次、野口雄平:在来線パンタグラフの横風揚力特性に基づいた割り込み事故防止策、鉄道総研報告、Vol.38、No.4、2024
  2. 阿部巧、中出孝次、光用剛:横風を受ける在来線パンタグラフの揚力増加メカニズムと対策に関する数値解析、鉄道総研報告、Vol.38、No.3、2024

その他の関連コンテンツ