構造物の振動評価

1.はじめに

新幹線の速度向上や新形式構造物の建設では、列車走行時の構造物の動的応答特性に起因する共振現象の把握が重要となります。桁等の構造物の振動が大きくなると、車両の走行安全性や乗り心地へ影響を及ぼすことから、構造物の振動が一定以下となるように配慮する必要があります。また、構造物は多くの部材により構築されていますので、個々の部材毎の動的特性の解明と応答評価が必要となります。ここでは、桁等の構造物の動的挙動を数値解析および実測により評価した事例、および部材の動的挙動を数値解析および実測により評価した事例を示します。

2.桁の動的挙動評価

桁上を高速で列車が通過した場合、車両が周期的に構造物を加振することから、共振現象により動的応答の急激な増加が発生することがあります(動画1)。このような動的挙動を設計では一般に衝撃係数として扱いますが、衝撃係数は部材のスパン長や列車速度に関連する速度パラメータに依存して変化します。鉄道構造物等設計標準(以下、設計標準)においては、衝撃係数を列車通過時の単純支持梁の動的応答の数値解として与えています(図1)。

動画1 単純桁の列車通過時の動的挙動
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長大橋や新形式橋りょうのように高速列車通過時の動的挙動が不明な場合には、動的応答解析を実施して、橋りょうの動的挙動や走行車両へ及ぼす影響を確認する必要があります。
本研究室では、DIASTARSに示す解析ツールを利用して、複雑な橋りょうの動的応答解析が可能です。
アーチ橋(動画2)、エクストラドーズド橋(動画3)、馬桁を有する連続桁(動画4)など、解析した事例を紹介します。
動画2 アーチ橋の列車走行解析
動画3 エクストラドーズド橋の列車走行解析
動画4 馬桁を有する連続桁の列車走行解析

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3.実測による桁の動的挙動評価

桁の動的挙動の評価においては、桁の振動モード(固有振動数や振動モード形)を評価することが重要です。本研究室では、解析だけでなく実測によるたわみ計測技術の構築および精度検証を進めています。 実橋りょうの振動モードを評価するため、多点多種センサの同期計測システムおよび列車通過時の計測波形に基づく振動モードの推定法を構築しています。図2に、I桁上に20点の加速度計を設置して計測した列車通過時の加速度波形から、桁の振動モードを評価した事例を示します。図に示すように、最も基本的な桁の1次たわみモードだけでなく、ねじりモードや2次以上の振動モードの同定が可能です。 列車通過時の桁のたわみは、振動モードのほか、設計標準に限界値が規定されており、桁の動的挙動の評価において重要となります。

 図3に代表的な計測手法と連続桁でのたわみ計測の事例を示します。現在では、接触式だけでなく、レーザーもしくは画像を用いたさまざまなたわみ計測技術を構築しており、現地の状況や求められる精度に応じた計測が可能となっています。
なお、UドップラーについてはUドップラーIIおよび遠隔非接触計測による構造物の検査・診断手法を参照ください。

共振が確認されたPRC桁を対象として、実測を実施し、さらに数値解析により再現しました(図5)。3次元有限要素解析 (3DFEM) により実測を再現可能ですが、鉛直モードとねじりモードを適切にモデル化した2自由度モデル (2dof) でも精度よく実測を再現できます。本解析手法を用いて、PRC桁の列車の繰返し通過に伴う曲げひび割れの進展を考慮した時系列解析を実施しました。

4.部材の動的挙動評価

新幹線の速度向上に伴い周辺環境への騒音・振動の評価が重要となっています。標準ラーメン高架橋を対象に、騒音の発生源となる部材の200Hzまでの振動特性を評価しました。 本手法では、桁の振動モードの評価と同じシステムを利用し、図6に示すように列車通過時の加速度応答を測定し、各種分析を行って固有振動数、固有モードの候補を決定します。また、FEMを用いたシミュレーション(DIASTARS)と併用することで、より詳細な部材振動特性の検討を行うことができます(図7)。

さらに、環境工学研究部騒音解析と共同で、『構造物振動に起因する明かり圧力変動シミュレーション技術』を構築しました。本研究は、2012年度主要な研究開発成果となっております。動画5に構造物の振動加速度に関するシミュレーション結果の一例を示します。

動画5 ラーメン高架橋の振動加速度に関するシミュレーション結果の一例

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鋼トラス橋のように多数の部材を組み合わせて構成される場合は、高速列車通過時の動的挙動が複雑になりますが、動的応答メカニズムは未解明でした。シミュレーション(DIASTARS)により、高速領域における鋼トラス橋の動的応答メカニズムを解明しました(動画6)。これらより、鋼トラス橋の各部材の衝撃係数の算定方法について検討しています。

動画6 鋼トラス橋の動的挙動評価の例

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鋼橋では、新幹線だけでなく、比較的列車速度の低い在来線でも騒音が問題となる場合があります。また、鋼橋では2000Hz程度までの振動が騒音に寄与する可能性があると言われており、ラーメン高架橋に比べてさらに局所的かつ高次の部材振動モードの評価が必要となります。このような評価を通常の計測手法で行う場合、膨大な数のセンサが必要となります。 本研究室では、図8に示すように、鋼橋の局所的かつ高次の振動モードの評価を効率的に実現する、多点加振と相反定理による振動モード評価手法を構築しています。

部材レベルの動的挙動の評価技術は、国内だけでなく海外の鉄道にも活用しています。 図9はイタリアの高速鉄道橋における床版の加速度評価を行った事例を示します。この事例では、共同研究先であるミラノ工科大学の計測システムで計測した多点加速度波形を利用し、本研究室で構築した振動モード評価法およびDIASTARSによる数値解析により、当該橋りょうの高速走行時の床版加速度の評価を実現しました。図10および動画7に評価および検証結果と走行解析の動画を示します。

動画7 イタリア高速鉄道橋の列車走行解析

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参考文献

  1. 貝戸清之,松岡弘大,渡辺勉,曽我部正道,藤野陽三:走行列車荷重下における鉄道橋桁の動的応答の特性とその利用,土木学会論文集F,Vol. 66,No. 3,pp. 382-401,2010.
  2. Matsuoka, K., Uehan, F., Kusaka, H. and Tomonaga, H.: Experimental Validation of Non-Marker Simple Image Displacement Measurements for Railway Bridges, Applied Sciences, Vol. 11, No. 15, pp. 7032, 2021.
  3. 徳永宗正, 池田学:鉄道 PRC 桁の複線同時載荷によるひび割れ進展に伴う動的応答増大の再現解析,土木学会論文集 A2 (応用力学) 77, No. 2 (2021): I_467-I_476.
  4. 松岡弘大,貝戸清之,渡辺勉,曽我部正道:走行列車荷重を利用した RC 鉄道高架橋の部材振動の同定と動的挙動の把握,土木学会論文集A1 (構造・地震工学),Vol. 67,No. 3,pp. 545-564,2011.
  5. Matsuoka, K., Collina, A., Somaschini, C. and Sogabe, M.: Influence of local deck vibrations on the evaluation of the maximum acceleration of a steel-concrete composite bridge for a high-speed railway, Engineering Structures, Vol. 200, No. 109736, 2019.

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