地震時走行安全性の評価

1.構造物の非線形化を考慮した地震時走行性の評価手法

既設構造物に対する地震時の脱線・逸脱対策工の導入を進める上で、地震時走行安全性の弱点箇所を精度よく迅速に抽出することが求められています。しかし、L1地震動に対しても非線形領域に達する場合があるため、詳細な数値解析を実施する必要がありますが、それによる検討期間の拡大や費用の増大が課題となっていました。 本研究では、構造物の非線形挙動を考慮した脱線限界について、構造物の振動変位(加速度)と構造物境界の不同変位(角折れ)の連成の影響を考慮した評価手法を開発しました (図1) 。

図2に、提案手法の適用例を示します。約5km程度の実新幹線区を対象に、詳細解析と提案手法による脱線限界を比較しました。図の上段は、構造物の種類と高さを示します。中段の構造物寄与度は、黒棒で示す振動変位の寄与度と、緑棒で示す不同変位の寄与度で、これらの和が1以下かどうかで評価できます。下段は、構造物毎の詳細解析と提案手法による脱線限界となる入力地震動の大きさを表しています。これらの図から、詳細解析と提案手法による脱線限界倍率を比較すると、両者が概ね一致しており提案手法の妥当性が確認できます。

提案手法に構造物の応答加速度(震度)や等価固有周期といった設計図書の情報を用いることで、詳細な解析をせずに定量的に評価でき、既設線区の弱点箇所の抽出や優先順位付けが可能となり、対策工の選定に活用することができます。

2.支承の免震化による橋りょうの地震時走行安全性の向上

新設の長大橋や耐震補強が難しい既設の河川部等の橋りょうにおいて、支承を免震化するニーズがありますが、橋りょうの橋軸直角方向の免震化による地震時の列車走行安全性については未解明な部分が多くありました。本研究では、車両と構造物の非線形動的相互作用解析を実施し、橋りょうの橋軸直角方向の免震化による地震時走行安全性の基本メカニズムを解明し、地震時走行安全性が向上する免震化の適用範囲を提案しました(図3)。

橋りょう端部に免震支承(すべり支承や免震ゴム支承)を用いると隣接する橋りょうとの境界部のずれが増加し、地震時走行安全性の確保が困難なため、このずれを抑制する免震構造として、EF免震、EM免震を提案しました(図4)。EF免震は,中間部の支承は免震、端部の支承は非免震とした構造で、境界部の対策は不要です。EM免震は,端部の支承も含め全支承を免震とし、境界部には角折れ・目違いを抑える対策を施した構造で、境界部の対策としてダブルベアリング構造、角折れ緩衝軌道等を提案しました。

5径間連続PC桁(橋長400m)を対象に、提案する適用範囲および構造を適用した場合、地震時走行安全性の向上と橋脚の損傷軽減が実現できることをシミュレーションにより確認しています(図5)。

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参考文献

  1. 徳永宗正,成田顕次,後藤恵一:鉄道構造物の大規模地震を想定した地震時走行安全性の簡易評価手法,土木学会論文集A,Vol. 76,No. 2,pp. 376-394, 2020
  2. 成田顕次,徳永宗正,池田学:支承の橋軸直角方向の免震化による連続 PC 桁の地震時走行安全性の 検討, 土木学会論文集 A2 (応用力学), Vol.77, No.2, I_551-I_562, 2021

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