コンクリート構造物の変状予測手法の開発

1.はじめに

鉄筋コンクリート(RC)構造物は、様々な荷重及び環境条件に置かれ、日々劣化します。膨大なRC構造物を経済的かつ効果的に維持管理するためには、かぶりコンクリートのはく落等の変状発生時期や構造性能の低下を予測し、適切な方法・時期・頻度で点検や対策を実施する必要があります。

2.はく落発生時期および構造性能低下の定量的予測手法の提案

鉄筋腐食によるRC構造物の劣化を予測するには、鉄筋腐食速度を評価することが重要です。しかし、供用中のRC構造物における鉄筋腐食速度は、材料条件や施工条件、水掛かりなどの環境条件の影響を受け、構造物や部位・部材毎に大きくばらつきます。劣化予測の精度を向上させるには、構造物や部位・部材の各種条件に応じて、鉄筋腐食速度を設定することが重要となります。そこで、目視で確認できるはく落等の変状に基づき、既往の劣化予測モデルを用いて、逆解析から鉄筋腐食速度を推定する方法を提案しました(図1)。図2は、本手法により推定した鉄筋腐食速度を用いて劣化予測した結果です。これにより、いつどこを重点的に調査すべきか、またいつどこを補修補強すべきかを客観的かつ視覚的に把握することができます。

3.はく落発生時の鉄筋腐食量評価手法の提案

はく落発生時の鉄筋腐食量は、かぶりや鉄筋間隔の他、経時変化するコンクリートの収縮・クリープの影響を受けます。そこで、時間軸を考慮した非線形有限要素解析を行い、はく落発生メカニズムを考慮したはく落発生時の鉄筋腐食量評価手法を提案しました。提案したはく落発生時の鉄筋腐食量を用いることで、供用構造物のはく落発生時における鉄筋の腐食量を精度よく評価できることを確認しています。

参考文献

  1. 轟俊太朗、渡辺健、鬼頭直希、笠裕一郎:現地調査データを用いた鉄筋腐食速度への影響因子に関する一考察、コンクリート工学年次論文集、Vol.37、 No.1、 pp.919-924、 2015
  2. 渡辺健、轟俊太朗、大野又稔、岡本大、曽我部正道:鉄筋コンクリート高架橋のかぶりはく落現象の評価、鉄道総研報告、第28巻、第6号、pp.5-10、2014.06
  3. 轟俊太朗、曽我部正道、谷村幸裕:変状発生因子のばらつきを考慮したRC高欄の劣化予測、鉄道総研報告、第26巻、第4号、pp.5-10、2012.04
  4. 轟俊太朗,石田哲也,田所敏弥,上田洋:コンクリートの中の鉄筋腐食に与える水とコンクリートの中性化の影響,土木学会論文集E2, Vol.75, No.4, pp.226-238, 2019 2.(※)
  5. 角野拓真,轟俊太朗,田所敏弥:タブレット端末を活用したコンクリート構造物のはく落予測ツールの開発,日本鉄道施設協会誌,Vol.57, pp.52-55, 2019.5 3.
  6. 角野拓真,轟俊太朗,渡辺健,田所敏弥:鉄筋コンクリート部材の鉄筋配置に応じた変状発生限界腐食深さに関する検討,コンクリート構造物の補修,補強,アップグレード論文報告集,第18巻,pp.161-166, 2018.10 4.
  7. 轟俊太朗,渡辺健,田所敏弥,岡本大:目視に基づくRC構造物の鉄筋腐食速度の推定法,鉄道総研報告,Vol.32, No.2, pp.11-16, 2018.2

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