レール締結装置の試験荷重算定法

1. 概要

レール締結装置の安全性の照査で実施する載荷試験に用いる荷重を、三次元非線形解析モデルにより自動で算定するツールを構築しました。従来の算定法では対応できなかった継目部などの軌道条件や、レール締結装置の非線形なばね特性を反映できるため、試験荷重のより正確な算定が可能です。

2. 背景

レール締結装置の疲労破壊に関する安全性の照査では、主に短いレールやレール締結装置一組を用いて構成する試験体に対して、静的および動的な二方向載荷試験(斜角載荷試験、二軸疲労試験とも言います)を実施し、レールの変位や締結ばねの応力から設計応答値を取得し、これを別途定める設計限界値と比較して性能を照査します。

ここで、実際の軌道では、レールは長手方向につながっているため、レールに作用した荷重は複数のレール締結装置に分散して伝わります。そのため、レール締結装置一組分の供試体を用いた試験ではこの影響を考慮し、レール締結装置の設計荷重(輪重、横圧)からレール締結装置一組に作用する荷重を算定し、更にレールのねじりを考慮してレールの回転角度(レール小返り角)を算定します。

この荷重算定のため、従来はレール締結装置を線形のばねとして表し、梁(はり)で表現されたレールが一様に連続的に支持された簡易な解析モデルが使われてきました。
しかし、この従来モデルではレール継目部や分岐器部のようにまくらぎ間隔が一定ではなく、また異なる種類のレール締結装置が用いられる軌道条件に対応できず、汎用性に課題がありました。

3. 提案手法の概要

前章に示した課題を解消する目的で、新たな試験荷重の算定手法、および荷重分散・レール回転角算定支援ツールを提案しました。この支援ツールは、「検討条件入力フェーズ」、「解析実行フェーズ」、および「結果抽出フェーズ」の3つのフェーズで構成されます。

本ツールでは、レールやレール締結装置の種別、まくらぎ間隔、曲線半径といった軌道条件と、設計荷重といった車両条件を設定するだけで、これらの条件を反映した正確な軌道の三次元非線形解析モデル(レール小返り解析モデル)を自動的に生成することができます。また、レール締結装置やまくらぎの支持部材をばねとして表現し、別途試験で得られた非線形な特性を持つばね特性の実測値をそのまま設定、反映することができる仕様としました。

この支援ツールの導入後は、解析モデル作成と結果抽出が自動化され、モデル作成の労力を大幅に減じつつ試験荷重の正確な算定ができるようになりました。

4. 提案手法の活用

提案した新たな試験荷重算定手法および支援ツールは、レール締結装置の性能照査に実際に使用しているだけでなく、軌道に関する様々な研究開発にも活用されています。

また、軌道の三次元非線形解析モデルは、当初レール一般部用のみを模擬したものでしたが、その後レールが不連続で継目板で拘束されたレール継目部を模擬した解析モデルを開発しました。これにより、レール継目部で使用するレール締結装置の性能照査を、レール締結装置一組で実施するための試験荷重条件の算定が可能になりました。

関連ページ

  1. まくらぎ間隔拡大に対応したバラスト軌道の設計・管理手法 【2019年度主要な研究開発成果】

参考文献

  1. 玉川新悟、片岡宏夫、弟子丸将:レールの小返り解析モデルの提案とレール締結装置の性 能評価試験への応用、土木学会論文 A1 (構造・地震工学)、73巻 2号、2017年(※)
  2. 弟子丸将、片岡宏夫、園田佳巨:軌道の支持状態がレール締結装置に作用する 荷重分散に及ぼす影響の研究、鉄道工学シンポジウム論文集、第22号、2018年7月
  3. 太田晋一、弟子丸将、楠田将之:レール締結装置の損傷が軌道の冗長性に 及ぼす影響分析、鉄道工学シンポジウム論文集、第24号、2020年7月
  4. 玉川 新悟、弟子丸 将、山本 智之:レール継目部に対応した軌道のFEM解析モデルの構築と継目部用レール締結装置1組に対する載荷試験方法の検討、日本機械学会論文集、88巻910号、2022年(※)

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