線路周辺画像解析エンジン

1.画像解析技術の列車巡視への活用

線路の維持管理業務の一つに、運転台に添乗する保線従事員の目視によって列車が安全に走行できる線路状態であることを確認する列車巡視があります。列車巡視は、全線を定められた頻度で、人の目によって実施する必要があるため、すべての鉄道事業者において恒常的なコストの発生要因となっています。

この列車巡視を効率化するための線路周辺画像解析エンジンを開発しました。本エンジンを用いることで、営業車などの前頭に設置したステレオカメラの撮影画像から、列車巡視の目視確認項目である、建築限界支障物の有無や沿線環境の変化などの検知結果を事務所などのPC上で確認することが可能になります(図1)。

2.多視点ステレオによる建築限界支障物検知

ステレオカメラで取得した2枚の画像間の視差等の情報を利用して、複数の画像フレームで共通して撮影される被写体の3次元情報(形状や色の情報)を復元します。復元した線路周辺の3次元情報から、建築限界内に存在する物体の有無を検知します(図2)。

本画像解析エンジンでは、画像上の特徴を掴みづらい駅構内や高架上などの類似するシーンが連続する場面に対しても、走行する営業車の先頭で撮影される画像の特徴を利用して、検知精度の向上や処理時間抑制のための様々な処理の工夫をしています。また、画像上の線路線形を推定することで、曲線区間では線路線形を考慮した建築限界支障物の検知が可能です(図3)。

3.異なる時期に撮影した画像間の差分検知

差分検知は撮影時期が異なる2つの画像を比較して画像上の相違箇所を出力する技術で、線路沿線の環境変化や設備の変状、線路付近の異物の存在等を把握するのに役立ちます。差分検知は、街中の監視カメラや製造業における不良品判定等の分野でも用いられる画像解析技術ですが、本画像解析エンジンでは、走行する列車上から移動を伴いながら撮影された画像を対象とするため、異なる2つの時期に撮影された画像間のフレーム同士の対応付けや、天候や日照条件に違いなどを補正した上で、差分検知を行います。

また、画像上の差分を単純に出力するのでは、線路の管理で不要な草木の揺らめきなどが検知されてしまうことから、このような不要な差分を棄却するために、画像上の被写体種別を識別する機能を開発しました(図4)。

本開発の一部は、国土交通省の鉄道技術開発費補助金を受けて実施しました。

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参考文献

  1. 三和雅史,清水惇,昆野修平,川﨑恭平,猿木雄三:画像解析技術で線路の巡視を省力化する,RRR,Vol.78,No.8,pp.8-11,2021
  2. 昆野修平,川﨑恭平,三島健吾,三和雅史,清水惇,中島昇:列車巡視支援のための線路周辺画像解析エンジンの開発,鉄道総研報告,Vol.36,No.3,pp.5-10,2022
  3. 昆野修平,川﨑恭平,清水惇,箕浦慎太郎:列車巡視を省力化するための線路周辺画像解析エンジンの開発,JREA,Vol.65,No.3,pp.45846-45849,2022