風荷重を低減して大幅な嵩上げを可能にする「風荷重低減型防音工」
1.はじめに
近年、車両の高速化や沿線での高層建築物の増加などの理由から、防音壁を大幅に高くすることに対するニーズが増しています。しかしながら、防音壁の嵩上げによって構造物に作用する風荷重の負荷が大きくなるため、既設構造物では強風時の風荷重が設計許容値を上回らないよう防音壁の高さが制限されるほか、大幅な補強工事が必要となる場合があります。そこで、列車走行時には高い防音性能を持ち、強風時には風荷重を低減する風荷重低減型防音工を開発しました。
2.風荷重低減型防音工の構造と性能
風荷重低減型防音工は、強風に伴う風荷重が作用した際、防音板が風下方向に開く構造をしています。そのため、防音板は両端面を軸支持構造とし、防音板下部を磁石による吸着力によって列車走行時は閉じた状態にあります。本防音工は構造物に適用することを想定して実物大での風洞試験を行って動作確認をしましたが、風荷重1.5kPa(風速約35m/s時)で防音板が開き、風荷重3kPa(風速約50m/s)の強風時には、構造物に負荷する応力が設計限界値を下回るよう防音工に作用する風荷重を低減できる見通しを得ました。一方、風が弱まった際に防音板が速やかに閉じることが求められるため、軸に防音板の復元機構を導入し、列車の運転規制が解除される際には防音板は閉じる構造としました。
また、沿線騒音低減のため高い防音性能が求められますが、本防音工の防音板が閉じた状態での音響透過損失は、現用の嵩上げ防音工と同等であることも確認しました(図1)。
3.風荷重低減型防音工の実用評価と耐久性
台風多通過地域における自然環境での暴露試験を行い、台風等の突風に対しても防音板が所定の風速で開閉することを確認しています(図2)。
さらに、鉄道沿線(首都圏在来線)での暴露試験、防音板の連続開閉試験、構造物設計標準に基づく構造物の疲労解析などを行い、本防音工が基本的な耐久性を有することを確認しました。
本防音工の開発には、日本板硝子環境アメニティ(株)の協力を得ています。
参考文献
- 半坂征則、佐藤大悟、間々田祥吾、木山雅和、谷口望:風荷重低減型防音工の復元機構の開発と耐久性評価、鉄道総研報告、第29巻、第5号、pp.35-40、2015.05
- M.HANSAKA, D.SATO, S.MAMADA, N,TANIGICHI:Mechanical Analysis of Soundproof Plate with Function of Wind Losd Reduction and Experimental Verification Using a Full-scale Prototype, Quarterly Report of RTRI, Vol.54, No.3, pp.183-189, 2013 (※)
- 佐藤大悟、半坂征則、谷口望、間々田祥吾:風荷重低減型防音板の力学解析と実用試験品による検証、鉄道総研報告、第26巻、第12号、pp.17-22、2012.12
- D.SATO, M.HANSAKA, S.MAMADA, N.TANIGUCHI:Development of a Wind Load Reduction Soundproof System, Quarterly Report of RTRI, Vol.53, No.3, pp.180-185, 2012.07 (※)
- 佐藤大悟、半坂征則、谷口望、間々田祥吾:風圧緩和防音工の構造と動作メカニズム、鉄道総研報告、第25巻、第11号、pp.23-28、2011.11
(※)印のついたリンクは外部サイトへ移動します。