落葉に起因する空転・滑走現象の解明
1.はじめに
山間線区では、線路周辺に落ちた枯葉が車輪とレールの間の粘着力を低下させ、車輪の空転・滑走を誘発することがあります。空転は、列車の遅延や運休を発生させて安定輸送に支障をもたらす恐れがあります。一方、滑走は、信号冒進や駅でのオーバーランを発生させるため、安全上の重大な問題です。加えて、空転により生じたレール頭頂面の空転傷や、滑走により生じた車輪踏面のフラット傷は、軌道と車両の保守費用を増加させるため、落葉に起因する空転・滑走の発生を抑制することは、山間線区を保有する鉄道事業者にとって重要な課題となっています。
2.試験車両走行による再現試験
所内試験線の直線区間に全長約20mの試験区間を設定し、秋季山間線区のレール面状態(落葉皮膜または黒色皮膜が付着)を再現した後、試験車両(R291系、2両編成0.5M1.5T)による力行試験とブレーキ試験を行いました(図1)。試験条件は、初速度30km/h(目標値)、力行ノッチ3~4、電気ブレーキのみを使用することで、再粘着制御の動作によって車輪の空転と滑走の発生状況を確認しました(図2)。
3.車輪の空転・滑走に至る過程の推定
山間線区において、枯葉によって車輪の空転・滑走に至る過程は以下のように推定されます。
秋季の山間線区では、軌道内に堆積した枯葉は列車通過時に巻き上げられ、車輪とレールの間に入り込んで踏み潰されることによりレール頭頂面に付着します。そして、山間線区では昼夜の気温差が大きく、早朝時間帯にレール面上に結露が発生するため、落葉の付着物(落葉皮膜)が水分を吸収することにより、葉に含まれるタンニンがレールの鉄成分と化学反応を起こし、黒色のタンニン鉄を含む黒色皮膜が形成されます(図3)。さらに、時間の経過とともに車輪に踏み潰される落葉の量が増加し、レール面の黒色皮膜は厚くなります。降雨や結露などの湿潤条件下で、形成された黒色皮膜はペースト状となって粘着力を顕著に低下させるため、空転や滑走を誘発してしまいます(図4)。
4.山間線区における落葉起因の車輪の空転・滑走メカニズムの解明
山間線区に車輪の空転滑走が多発している原因は、レール面に生成された強固な黒色皮膜が、結露や雨などの湿潤条件下で粘着係数を著しく低下させるためと考えます(図5)。
参考文献
- 菅原衛:山間線区における空転滑走に関する研究、土木学会年次学術講演会講演概要集(CD-ROM)、Vol.67、No.6-495、2012 (※)
- 生駒一樹、鈴村淳一、木村成克、陳樺:落葉によるレール上黒色被膜の生成と評価、鉄道技術連合シンポジウム講演論文集(J-RAIL2018)、2018
- キリヤ化学株式会社:タンニンとは何ですか? (※)
- 陳樺:粘着力に対する落葉の影響調査、鉄道総研第307回月例発表会、2017年2月
- 陳樺、古谷勇真、深貝晋也、嵯峨信一、村上浩一、伴巧:粘着力に対する落ち葉の影響、鉄道総研報告、第31巻、第4号、pp. 29-34、2017.04
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