地理・気象データを使用した広域レール温度予測システム
1.はじめに
レール温度が過度に上昇すると、軌道座屈の危険性が高まります。近年では、我が国でも気温が40℃を超える酷暑を記録するなど、温暖化に伴いレール温度は上昇傾向にある一方で、少子高齢化により労働人口と管理費の確保が今後難しくなることから、レール温度管理の精度向上と効率化が望まれています。これを目指す技術として、地理・気象データを活用したレール温度予測システムを開発しました。
2.レール温度予測システム
本システムでは、気象条件をそれに対応するレール温度に変換します。気象庁等の明日の気象予報値を入力すれば、明日のレール温度を、夏季の平均的な気象条件を入力すれば夏季の平均的なレール温度が予測できます。その他、熱帯、寒帯、地球温暖化によるレール温度の上昇等、任意の気象条件下でのレール温度の予測計算が可能です。
図1に示すように、地理データ(地形・建物等の標高データ、線路データ)・気象データ(気温・湿度、日射量、風速)からレールの吸収熱と排出熱を計算します。その際、線路周辺の建物等による日陰、レール自体の日陰、およびレール表面が日射(太陽の放射熱)を受ける角度を考慮した詳細な日射量評価を行います。その後、レール長手方向の1次元熱伝導解析を行い、1m毎のレール温度分布を10分間隔(任意に設定可能)で計算します。位置を指定して断面内の2次元の温度分布も計算可能です。計算負荷は小さく、オフィス用のPC(CPU: Intel Core i7-8700K、メモリ:16GB)で約100kmの広域の温度分布を計算しています。
3.実線路での解析精度の検証
図2の写真のように、日中に線路の一部が日陰となる箇所で、レール温度の測定値と解析値を比較しました。気象データには、沿線での測定値を使用しました。
図3(a)に示すように、夏と冬、両方の温度変化が良く一致しており、最高レール温度の誤差は2℃以下でした。また、図3(b)に示すように、建物1と建物2付近では、日陰によりレール温度が約10℃下がりますが、この温度差を解析で再現できました。
4.予測計算例
(1)標準気象条件下での夏季のレール温度予測
8月15日の標準気象条件下でのレール温度の予測結果を動画1に示します。
また、図4に示すように、7月~9月のレール温度予測値から、夏季の最高レール軸力を計算したところ、日陰やレール敷設方向の影響によってばらつきが生じ、区間最高値より3℃以上低い箇所が20%、5℃以上低い箇所が7%存在するとの結果が得られました。
※上記の動画は外部の動画サイトの埋め込みリンクです。
(2)早朝の気象予報から当日のレール温度を予測
図5に示すように、6:00時点の気象予報値から当日のレール温度を予測したところ、おおよその温度変化は予測できました。気象予報精度が向上すれば、より正確なレール温度予測が可能となります。
(3)レール温度の上昇対策の定量評価
図6に示すように、1m当り50mlの水を30分毎に散布した場合およびレール片側の腹部と底部上面に反射率80%の反射塗料を塗布した場合、レール温度が50℃以下に抑制されました。