横風を受けるパンタグラフの揚力増加メカニズムの解明

1.はじめに

鉄道車両の屋根上に設置される集電装置のパンタグラフは、走行時に車両進行方向の風に加えて横風の影響を受けます。車両への安定した電力供給のためにはパンタグラフの揚力の適正化が重要ですが、横風により揚力が増加する場合があることが実験によりわかっています。そこで、パンタグラフのような複雑な物体形状の流れのシミュレーションを得意とする直交格子法を用いて数値解析を実施し、横風により揚力が増加する現象を解明しました。

2.風洞試験の再現

図1は過去に集電力学研究室が米原風洞技術センターの開放型測定部で実施した風洞試験の様子です。パンタグラフを主流に対して回転させることで横風を再現しており、数値解析でも同様にして横風を再現しました。風洞試験と数値解析で得られたパンタグラフ舟体周りの圧力係数を比較した結果、両者は良好な一致を示しており、数値解析手法の妥当性が確認できました(図2)。

3.流れ場の解析結果

パンタグラフの舟体周りの流れの様子を動画1に示します。計算は鉄道総研のスーパーコンピュータ「究2」(Cray XC50)を用いて実施しました(計算格子数は約10億点)。動画から、上流側の舟体で流れ方向に渦構造が発達する様子が見てとれます。流れ場を詳細に調査した結果、この渦構造の周囲に高い負圧が生じること、舟体底面の正圧が増加することがわかり、これらがパンタグラフの揚力を増加させる主な要因であるとわかりました(図3)。

動画1 横風を受けるパンタグラフ舟体周りの流れの様子(鉛直上側からの視点)

※上記の動画は外部の動画サイトの埋め込みリンクです。

動画2 横風を受けるパンタグラフ舟体周りの流れの様子(舟体正面からの視点)

※上記の動画は外部の動画サイトの埋め込みリンクです。

参考文献

  1. 阿部巧,中出孝次,光用剛,“横風を受ける在来線パンタグラフの揚力特性に関する数値流体解析”,第30回 交通・物流部門大会 (TRANSLOG2021),No. 21(2021),TL1-3
  2. 中出孝次,井門敦志,梶島兵夫,“台車を含む鉄道車両モデルにおける車両床下の蛇行流れ(実形状の鉄道車両モデルにおける大規模流れ構造のLES) ”,日本機械学会論文集 Vol.87, No. 894 (2021), DOI:10.1299/transjsme.20-00398. (※)
  3. 磯野達志,光用剛,平川裕雅,臼田隆之,“舟体の外形寸法が横風環境下における在来線用パンタグラフの揚力特性に及ぼす影響評価”,第28回 交通・物流部門大会 (TRANSLOG2019),No. 19(2019),1102

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