鉄道総研式ヒューマンファクター分析法

1.鉄道総研式ヒューマンファクター分析法の研究内容

従来、ヒューマンエラーに起因した事故の分析というと、予め整理された要因リストに発生事象を当てはめることに終始していました。その結果、行為者だけに注意喚起や指導徹底がなされるといった「目に見えるもの」に対する対症療法的処置が行われ、問題の発生に関係している他の関係者の要因や無理な要求が是正されないままになってしまいます。作業やシステムを改善するのも人間であるため、関係者に「なぜその対策が必要なのか」を納得させることができない的外れの対策の実施は、組織全体のモチベーションを低下させることに繋がり、それが新たなヒューマンエラーの原因ともなりかねません。

鉄道総研では、これらの問題を改善すべく、「鉄道総研式ヒューマンファクター分析法」を開発しています。この手法では、「予め期待した目標とは何か」、「エラーと特定する理由は何か」といった視点で発生した事故やインシデントの発生経緯を整理します。ヒューマンエラーの効果的な防止に向けて、必要な検討を十分に行うために、分析の手順は3段階に分かれており、各段階で、事実確認(調査)に立ち返りながら分析を進めます。

2.鉄道総研式ヒューマンファクター分析法の実際の取り組み

講演および演習研修

分析手続きの指導としては、鉄道技術講座『ヒューマンファクターの調査・分析法の基礎』を開催しています。 その他、個別のご要望に対応し、事故担当者、指導者、職場管理者、若手リーダーなど様々な担当や階層レベルに対応した内容の研修を行っています(表1)。

マニュアルの販売

適切な分析の実施のためには分析技術だけではなく、分析対象となる人間の特性を理解することが必要です。そのため、エラー発生の仕組みや背景要因の考え方・対策の検討方法の解説書を作成しています。
指導ノウハウをふまえて、2017年5月から、「鉄道総研式 ヒューマンファクター分析法マニュアル」として、[初級編]と[中級編]に分けて発刊しています。

[初級編]:初めて分析を行う人向けに、分析法の概要や分析の流れを説明。
      付属CDには、ヒューマンファクターの解説と分析事例を収録。
[中級編]:より効率的に分析を行いたい人や分析の指導を担当する人向けに、実務で分析をする際のヒントや
      分析法の指導法を説明。
      付属CDには、ヒューマンファクターの解説となぜなぜ分析の簡易な支援ツールを収録。

ヒューマンファクターの解説は、事故防止に関するたくさんのヒントが包含されており、事故分析の担当者だけでなく、職場の安全マネジメントに携る多くの方々にも理解を深めていただけるものと考えています。

関連ページ

参考文献

  1. 宮地由芽子、板谷創平、村越暁子、岡田安功、羽山和紀、鏑木俊暁、畠山直:ヒヤリハット情報を用いた安全管理支援手法、鉄道総研報告、第30巻、第9号、pp.5-10、2016.09
  2. 宮地由芽子、中村竜:事故分析スキルの養成における現状と課題、JREA、Vol.56、No.3、pp.7-10、2013.03
  3. 宮地由芽子:職場安全管理の改善に向けたヒューマンファクタ分析手法、鉄道総研報告、第21巻、第5号、pp.11-16、2007.05