触車事故防止ルールの遵守徹底に向けた安全教育法

保線・電気系統の事故事例分析および現場社員を対象とする意識調査により、線路内作業におけるルール違反を防止するためには、事故のこわさや事故後の各方面への影響に加えて、「この行動が事故につながる」という事故の発生プロセスについての教育が必要なことが分かりました(図1)。

そこで、触車事故の発生プロセスを学ぶための7個の教育項目を開発しました(表1)。
・このうち6個は、事故の発生プロセスを教育内容とするため、教育のねらいは全て「・・・すると(しないと)、事故につながることを理解」です。
・事故の発生プロセスが教育内容ではない『➂事故後影響の想定』は、教育の最初に行うと、ウォーミングアップとなります。

開発した表1に示す7個の教育項目について、現場で実施可能な負担の範囲内で、効果が最大になるような組み合わせを検討し、6種類の「教育プログラム」を試行的に作りました(表2)。これらの教育プログラムを保線・電気系統の現場で試行した結果、現場で実施可能な範囲の負担感であり、受講者満足度が高く、ルールを守る意識が向上することを確認しました。

これらの教育プログラム(表2)について、保線・電気系統等の現場管理者等が自分の職場で教育を実施できるよう、講師のセリフ例と留意点を記載した講師用マニュアルと教材のセットを「触車事故防止ルールの遵守促進のための安全教育法マニュアル(STAT-ZERO)」として整備しました。

動画 触車事故防止ルールの遵守徹底のための安全教育法【第337回 鉄道総研月例発表会ウェブ配信】

ここでは教育プログラムの例として、プログラム5と6の内容を紹介します。これらの教育プログラムでは、「バーチャルリアリティ(VR)教材(STAT-VR)を用いた訓練」と「事例置換え課題」の2課題を行うことで、線路内での保守作業における事故の発生プロセスを学ぶことができます。

STAT-VRの特徴

STAT-VR(スタットブイアール)では、模擬空間の中で作業責任者として保守作業を実施することを通じて、事故の発生プロセスを受講者自身が理解し、安全への意識を高めることができます。この教材では「人の注意力の限界(作業に意識が向くと列車への意識が薄れること)」や「早期待避の大切さ(早期待避しないことが事故につながること)」などを学ぶことができます。

事例置換え課題の特徴

「事例置換え課題」では、ワークシートを使って、他の職場で生じた早期待避ができなかったことに起因する事故事例を自身の職場で生じたものと想定し、ルールを守るための具体的対策についてグループディスカッションを行います。ディスカッションを通じて、事故の発生プロセスや必要な対策の理解を深めることができます。

開発した教育プログラムを、実際に線路内での保守作業を行う機会の多い現場社員に試行した結果、ルールを完全に守る人の割合が増加しました。特に「VR教材による訓練」は受講者の満足度が高く、「リアリティがある」との評価が96%でした。

参考:STAT-VRの使用条件

・可搬式のため、室内で3m×4.5m以上の場所があればどこでも実施可能です。
・実施要員は訓練者本人のほか、3名です(操作者〈講師〉+保護スタッフ2名)。
・STAT-VRの他、VRヘッドセット(HTC VIVE Pro またはHTC VIVE Cosmos)、
 市販のパソコン(OS:Windows10)、市販の三脚(HTC VIVE Proの場合)を用います。

関連ページ

参考文献

  1. 村越暁子、宮地由芽子、松本麻美、鏑木俊暁、羽山和紀、触車事故防止ルールの遵守徹底に向けた安全教育法の開発、鉄道総研報告、第34巻、第1号、pp.9-14、2020.01