衝突事故時の乗客被害を軽減する腰掛座面

近郊形車両などで設置される転換クロスシートなど、まくらぎ方向に並べられた腰掛に着座した乗客が、列車衝突時の衝撃で投げ出されて前席に衝突することで、下肢傷害が発生することがあり、鉄道事故調査報告書等でもこの可能性が示唆されています。また、欧米では傷害度を一定以下に抑える規定があり、傷害度を下げるため、座席が転換しない構造に固定される例がみられますが、我が国ではこれまで傷害度の評価例がありませんでした。そこで、衝突事故時の下肢傷害度を低減できる腰掛座面を開発しました。

従来腰掛の座面は、一般的にクッション部を剛性の高い鋼管で囲まれた天板で下から支える構造となっており(図1)、乗客下肢が衝突した際に傷害度が大きくなる要因となっています。そこで、座り心地が現状より悪化しない構造を主観評価で検討した上で、乗客下肢が衝突する部分をアルミ角とし、ウレタンで両端支持する緩衝構造を考案しました(図2)。本構造の傷害低減効果を確認するため、プロトタイプ座面を製作し、踏切事故を想定したスレッド試験を行いました(図3)。その結果、従来座面と比較して、下肢の傷害度が60%程度低減しました。また、欧州を中心に各国での評価に広く参照されているUNIFE(欧州鉄道産業連合)の技術レポートで規定されている傷害度の限度値を下回ることも確認しました(図4)。

座面のみで大幅な緩衝効果が得られることから、事業者等が衝突時の衝撃緩和を考慮した腰掛を開発する際に、現行品に対して大きな設計変更を行うことなく、導入することが可能です。

図1 従来腰掛の座面構造

図2 座り心地も考慮した緩衝構造組込み座面

図3 スレッド試験による効果確認

図4 下肢傷害の低減効果