P波規定値超過判定による早期地震警報手法

現行のP波警報では、地震諸元(震央距離、震央方位、マグニチュード)の推定に1秒以上の地震動データを利用しているため、警報出力までに地震検知後1秒以上の時間を要しています。そこで、主に鉄道沿線の近地で発生する地震に対する警報の即時性向上を目的として、地震検知後1秒以下で警報出力な「P波規定値超過判定」による早期地震警報手法を開発しました1)~4)

1.手法の概要

 提案手法では、観測されたP波振幅にS波/P波振幅比を乗じることで、今後到達するS波振幅をリアルタイムで予測し、警報出力の要否を判断します(図1)。
 S波/P波振幅比は地点ごとに大きく変動します(図2)。あらかじめ過去の多数の地震動データを使用して求めた地震検知点ごとに固有のS波/P波振幅比を利用することで、警報出力精度が向上します。
 地震検知点におけるP波振幅を利用する、かつ演算処理が非常にシンプルな提案手法により、特に震源近傍において即時性と安定性の高い早期地震警報を実現します。

2.適用性の評価

 提案手法を2004年新潟県中越地震本震に適用した結果、震源断層周辺に位置する地震検知点では、現行のP波警報(C-Δ法)やS波警報と比べて提案手法が最も早く警報出力できることを確認しました。例えば、震源断層のほぼ直上に位置するK-NET小千谷観測点に適用した場合、P波検知からわずか0.09秒で警報を出力することが可能でした4)(図3)。
 提案手法を早期地震警報システムへ導入することにより、近地地震に対する鉄道の安全性をより一層高めることができます。

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参考文献

  1. 津野靖士,宮腰寛之:S波/P波の振幅比を利用したP波規定値の地震警報に関する検討,日本地震工学会論文集,Vol.19,No.6,2019(※)
  2. 津野靖士,是永将宏,森脇美沙,丹羽健友:震源近くの列車をより早く止める,RRR,Vol.80,No.2,pp.32-37,2023
  3. Seiji Tsuno, Katsutomo Niwa, Masahiro Korenaga, Hiroaki Yamanaka, Kosuke Chimoto, Hiroe Miyake and Nobuyuki Yamada, “Application of the on-site P-wave earthquake early warning method based on site-specific ratios of S-waves to P-waves to the 2016 Kumamoto earthquake sequence, Japan,” Earth, Planets and Space, Vol.76, No.32, 2024(※)
  4. 森脇美沙,津野靖士,是永将宏:P波規定値超過判定手法による早期地震警報の即時性と正確性の検証,鉄道総研報告,Vol.39,No.4,pp.33-40,2025

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