海底地震津波観測網を利用した早期地震警報システム

 (国研)防災科学技術研究所などの公的機関により整備運用が行われている海底地震津波観測網のデータを活用した、鉄道用早期地震警報手法の研究開発を行っています。海域で発生する地震に対して、震源に近い場所に設置されたセンサーで地震波をとらえて警報の判断を行うことで、海域で発生した地震に対してより早期に地震警報を出力することが可能となります(図1)。

1.海底地震計情報を利用した早期地震警報手法の実用化

 海底地震計データによる規定値超過情報を用いた、鉄道向けの早期地震警報手法を開発し、実用化しました1)~4)。この手法では、単独の海底地震計の規定値超過により、あらかじめ定められた区間に対して警報を出力します。また、海底における距離減衰と地盤増幅の特性(図2)を明らかにすることで信頼性の高い規定値を設定する手法を提案するとともに、警報の信頼性を保つためのデータの品質管理情報・誤警報防止手法や、データの通信仕様も提案しています。これらの手法は、新幹線の早期地震警報システムに導入されています。
 この手法の開発と早期地震警報システムへの導入が評価され、2021年度に、新幹線東日本旅客鉄道株式会社、東海旅客鉄道株式会社、西日本旅客鉄道株式会社、国立研究開発法人防災科学技術研究所、国立研究開発法人海洋研究開発機構とともに、『第20回日本鉄道賞 日本鉄道大賞』を受賞しました。

2.複数海底地震計情報を活用した巨大地震検知手法

 海域で巨大地震が発生した時に、陸上の広い範囲に対してより早く警報を出力することを目的として、複数の海底地震計の情報を活用した巨大地震の検知手法を開発しました。提案手法の一つとして、複数地震計の規定値超過情報による巨大地震検知手法を紹介します(図3)。この手法では、事前に海域で巨大地震が発生したと仮定し、距離減衰式などから仮想の震源近傍の海底地震計での地震動を計算し、その値を巨大地震検知用の規定値とします。地震発生時には、複数の海底地震計がこの規定値をした時点で、巨大地震である可能性が高いと判断して広い範囲に警報を出力します。この手法は複数の海底地震計の規定値超過で判定するため信頼性が高く、かつ計算負荷も小さいため早期地震警報システムへの導入も容易です。

 地震解析研究室では、上記に加え、海底水圧計データの早期地震警報手法への利活用検討など、さらなる安全と信頼性の向上を目指した研究開発をおこなっています。

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参考文献

  1. 宮腰寛之,山本俊六,祗園昭宏,神山真樹,他谷周一,渡辺篤,功刀卓:鉄道の早期地震警報への海底地震計情報活用に向けたデータ処理,鉄道総研報告,Vol.29,No.1,pp.35-40,2015.
  2. 是永将宏、山本俊六、青井真:海底地震計データを早期地震警報に使う,RRR,Vol.76,No.3,pp.8-11,2019.
  3. M.KORENAGA, S.YAMAMOTO, S.NODA, S.AOI:Earthquake Early Warning Using Ocean Bottom Seismic Data for Railways,Quarterly Report of RTRI,Vol.60,No.2,pp.134-139,2019.
  4. 岩田直泰、是永将宏、山本俊六、青井真:海底地震計データの活用による地震警報の早期性向上,日本鉄道施設協会誌,Vol.59,No.3,pp.39-40,2021.