列車による建築限界測定技術
1.概要
沿線設備の線路からの離れ具合に対して、従来の手検測に代わる新しい検査方式として、レーザーの反射時間から距離を測定できるLiDARセンサを用いて低コストで効率的に測定できる装置を開発しました(図1)。
2.装置の構成
本装置について、図2のようにLiDARは車両妻面に複数台設置され、牽引車と連結した状態でも測定可能な配置としています。本装置は軌道検測車から車両の速度情報として、速度発電機のパルス情報も受け取れる構成としています。これにより、GNSSとIMUがなくても建築限界が測定可能となります。
測定精度はLiDARの設置位置、角度、台数に依存します。実証実験の結果、本装置では、妻面の左右それぞれにLiDARを2台ずつ設置し、ビーム照射角度をレール方向に対し外側へ45°に設定しました。これにより、連結車両による遮蔽を回避しながら高い測定精度を実現しました。
また、車体動揺や偏いへの対策として、レール検出用に下向きの測域センサも設置してレールを抽出することで、補正を行っています。
3.試験結果
列車前方映像と本装置で取得した3次元点群像はよく合致しており、3次元点群データから対応する設備を特定するのに有用と言えます(図4)。
また、手検測の各測定箇所のレールレベルからの高さと水平離隔の誤差の関係については、動揺補正を施すことで全設備に対して目標となる誤差200mm以内を達成しました(図5)。
4.管理システム
建築限界データを測定・記録できる管理システムを開発しました。解析の結果、「支障」や「注意(建築限界+200mmの範囲)」となった設備は、図7のように断面図で詳細に確認が可能となっています。さらに詳細を確認したい場合は、3次元表示で確認することもできます。全設備の確認が終わったら、既存の管理台帳と同一フォーマットのエクセル形式のファイルを出力することで、これまで通り設備管理システムに登録可能となっています。
参考文献
- 遠山喬、長峯望、大森達也、北尾憲一、中曽根隆太:測域センサを用いた建築限界判定装置と管理システムの開発、鉄道総研報告、第32巻、第5号、pp.11-16、2018.05
- 長峯望:列車による建築限界測定技術の実用化、鉄道総研月例発表会要旨、第321回、2018.07
- 長峯望、遠山喬、大森達也、松原智彦、久永雅子、原田宗幸:測域センサを用いた車上型建築限界判定装置、第55回鉄道サイバネシンポジウム論文集、論文番号603、2018
- 山中浩司、松本航、長峯望、遠山喬、向嶋宏記、合田航、多田靖弘:建築限界支障判定装置の導入について、日本鉄道電気技術協会、鉄道と電気技術、2021