3. 中小規模地震を考慮した鉄道構造物の復旧性照査法
現在の鉄道構造物の耐震設計では、震度7程度の大規模地震(L2地震動)において早期に修復可能な損傷に留めるという性能が要求されています。その一方、近年頻発する震度6弱〜6強程度の中規模地震に対する性能は明示されておらず、例えば2018年大阪府北部地震や2021年千葉県北西部地震において運転再開に時間を要するなど、早期復旧の観点で課題が浮き彫りになりました。
この課題を解決するため、中小規模地震の影響を考慮した構造物の復旧性照査法を提案しました。
提案手法の設計フロー(図1)は、「中小規模地震を含む全ての地震動」を対象とし「復旧日数を照査指標とする」ことに特徴があります。この手法は、現在の耐震設計の枠組みに直接導入可能です。
さらに、提案手法による設計をより実務的に実施可能とするために、要求される復旧日数、対象条件(地域、構造形式等)、構造物の損傷箇所(基礎、柱等)毎に、構造物に要求される強度(降伏震度)のノモグラム(図2)を用意しました。
この結果から、基礎の損傷が先行する構造物が、柱が先行して損傷する構造物と同等の復旧性を確保するには、より大きな降伏震度が必要であることが分かります。過去の被害でも基礎が損傷すると復旧に多くの日数を要しており、図2の結果はこの傾向と整合しています。図2の例は5日で復旧可能な構造物に必要な所要降伏震度ですが、要求する復旧日数に応じたノモグラムを選択することで、通常と同様の手順で設計が可能となります。
提案手法により、新設構造物ではより復旧しやすい構造物が構築可能となります。
また、既設構造物では復旧に時間を要する箇所を特定できることから、こうした箇所に重点的な事前対策を行うことで、地震後の運転再開までの時間短縮が実現されます。