車輪・ブレーキ系材料の研究開発

1.はじめに

車輪は鉄道システムを成立させる最重要部材の一つです。境界領域部材としての車輪は、レールとの転動接触にともなう摩耗や損傷のほか、車輪を用いる摩擦ブレーキ(踏面ブレーキ)による影響を受けます。実用上、車輪の耐久性能に大きく影響するのは、レールからの負荷とブレーキによる熱影響が重畳した熱的力学的環境で発生するき裂や摩耗であり、摩擦材料研究室ではこうした車輪踏面損傷のメカニズム解明や対策提案を行っています。

また、車輪フランジ部は曲線通過時のレールとのすべり接触により摩耗するため、適切な潤滑が必要です。摩擦材料研究室では、固体潤滑技術を応用した車輪摩擦材「踏面調整子」を開発し、粘着向上とフランジ摩耗低減の両立を図っています。

車輪踏面ブレーキの摩擦材である踏面制輪子は、摩擦係数や耐摩耗性などの基本的な特性のほか、降雨・降雪時の性能、粘着への影響、車輪踏面損傷、ブレーキ音や転動音などを考慮する必要があります。現実として、これらの条件をすべて満足する材質の開発はきわめて難しく、用途ごとに多数の材質が使用されています。摩擦材料研究室では、境界領域部材としての各種制輪子の特性評価を行っています。

2.車輪・ブレーキ系材料の概要

車輪

現在使用されている車輪は炭素鋼(0.60-0.75%C)製一体圧延車輪です。製造時の熱処理により材料組織の調整とともに内部残留応力が最適化され、ブレーキ時の熱負荷に対する耐久性を有します。一体圧延車輪は熱処理の種類により3つの種別に大別されます。踏面ブレーキは車輪の構造的信頼性が確保される熱的条件の範囲内で使用されます。

鋳鉄制輪子

最も古い制輪子材質で、ブレーキ摩擦性能は低い反面、車輪踏面に適度な粗さを付与し良好な粘着状態を生成することから現在でも寒冷地や山岳線区を中心に不可欠な存在です。材質は片状黒鉛鋳鉄で、合金元素を添加して摩擦特性を改善した合金鋳鉄制輪子は特急気動車や機関車に使用されています。

合成制輪子

フェノール樹脂を主成分とする制輪子です。摩擦性能が良好で、低摩耗、軽量、安価な特徴を有します。湿潤環境での性能低下の軽減を図った耐雪型や、車輪踏面を粗面化し粘着特性を改善する増粘着型もあります。数量的には制輪子の大多数が合成制輪子です。

焼結合金制輪子

銅や鉄を主成分とする焼結合金製の制輪子です。摩擦性能と全天候性に優れ、低摩耗です。湿潤環境での性能が高く、寒冷地を中心に使用されています。

車輪踏面研摩子

踏面ブレーキではありませんが、車輪踏面を摩擦することで車輪踏面を清掃するとともに適切な表面粗さを生成し、粘着を確保します。新幹線の全車両で使用されているほか、在来線車両でも多数の使用例があります。

摩擦材料の研究開発における位置づけ

※ 車輪踏面熱き裂の発生メカニズムと対策法もあわせてご覧ください。

車輪・ブレーキ系材料の研究開発を行っています。一例として、踏面ブレーキ車輪に発生する熱き裂や凹摩耗などの損傷の原因を、実験・材料分析・数値解析を組み合わせて解明し、各種の対策を提案しています。

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