研究室の概要

1.信号システム研究室の概要

 信号保安装置・システムは、列車運行の安全確保のために、「列車同士を衝突させない」「列車を止めるために情報を伝える」「列車の位置を検知する」「列車の進行方向を検知・制御する」役割を持っています。また、信号保安装置・システムは「誤った出力や故障をチェック・検知する」「故障時の出力を固定する」仕組みを備えることで、システムや装置が故障しても高い確率で安全な状態を確保する仕組みや考え方を備えています。信号システム研究室では、これらの役割や仕組みを持つ信号保安装置・システムのうち、主に鉄道事業者で現在使われている装置やシステムや、既存の装置・技術を応用・発展させた信号保安システムに関する研究開発(図1)に取り組んでいます。

2.信号保安装置・システムに関する研究開発

信号システム研究室では、主に以下の信号保安設備・システムに関する研究開発に取り組んでいます。

軌道回路

レールと車輪の電気的な短絡を利用して列車の位置(在線している区間)を検知する装置です。短絡現象の把握やモデル化、耐ノイズ性能が高い低周波軌道回路の開発などに取り組んでいます。

ATS・ATC

列車の停止や速度の制御を行う装置です。車上データベースを活用したATS-Dxの開発や、自動運転システムへの応用などの取り組みを行っています。実験設備として、地上車上間の情報伝送に関する試験装置(高速回転試験装置)を保有しています。

転てつ装置

列車の進行方向の制御・検知・保持を行う装置です。転換動作密着力、応力解析と折損防止手法などの現象解明、動力転てつ機等の開発を行っています。実験設備として、試験用の分岐器などを保有しています。

連動装置

駅構内の信号機や転てつ機などの制御を、一定のルール(連鎖)の下で、リレーやコンピュータ等による論理演算により行う装置です。電子連動装置の論理演算機能をクラウドサービスのように提供するクラウド型連動装置の開発に取り組んでいます。

3.共通課題への取り組み

上記に加えて、信号システム全体に共通する課題にも取り組んでいます。また、現行の信号保安装置・システムに関する課題解決や、各種評価も行っています。

新たな技術を活用した研究

汎用機器を保安装置へ活用する際に課題となる、安全性とセキュリティを確保するための技術(秘密計算技術)について検討を行っています。また、設計や保守情報の管理業務の労力を低減のため、設備管理へのデジタルツインの活用について検討を行っています。

耐環境性の向上に資する研究開発

振動環境の実態把握や耐久性の評価手法に関する研究や、雷害の発生確率に関する推定手法に関する研究などの、信号保安装置・システムの耐環境性の向上に資する研究開発に取り組んでいます。

維持管理に関する研究開発

転てつ装置や軌道回路などの信号保安装置の異常検出に関する研究のほか、状態監視データを故障時のダウンタイム短縮に活用する研究を行っています。また、使用環境に即した適切な更新時期を示す鉄道信号用電子機器の寿命評価手法は、信号保安装置の更新コストの低減に寄与しています。

参考文献

  1. 新井英樹:鉄道総研の研究開発最前線 信号技術研究部,RRR,Vol.80,No.2,pp.8-12,2023