中出 孝次
-先輩職員インタビュー-
プロフィール
中出 孝次
計算力学研究室 室長
1997年入社
転倒の危険性をはらむ強い横風や
新幹線の車体周辺における風の動きを研究する
鉄道総研への入社を考えるようになった時のことを、今もはっきりと覚えています。当時、新幹線の高速化プロジェクトが盛んで、JR3社が高速試験車両の開発に注力していました。加えて、リニアの研究開発も活発で、鉄道技術が日に日に発展していく様子が伝わってきたのです。そんな時、鉄道総研の大型低騒音風洞建設に関するニュースが飛び込んできました。大学院で翼列流れの数値シミュレーションの研究に取り組んでいた私は、「世界有数の設備を備えている鉄道総研で流体力学の研究に取り組みたい」と思い、入社を決意しました。
以来、車両空力特性研究室と計算力学研究室で流体のシミュレーションに関する研究に打ち込んできました。最近取り組んでいる研究は大きく分けてふたつ。ひとつは横風の研究です。例えば、強風が吹いた時、車両が横風によって転倒しないよう、鉄道事業者は風速値による規制を敷いています。この数値をさらに適正なものにすることが研究テーマの目的です。もうひとつは、車両周りの風の流れに関して。新幹線車両と地面の間の“床下流れ”をテーマに研究しています。床下流れが乱れると空気抵抗が大きくなり、騒音も大きくなってしまいます。そこで、床下流れを中心に、側面や車両上の空気の流れをよくするための研究に携わっています。
不規則な動きをする風の動きを
大規模シミュレーションによって解明する
流体研究においては、風洞実験、流体シミュレーション、理論解析の3つが柱になります。私が最も得意とするのがシミュレーションで、学生時代からシミュレーションのプログラムを組んで、流体研究に取り組んできました。現在は、当時のプログラムを発展させたものを使っており、鉄道総研のスーパーコンピュータを用いて大規模流体シミュレーションの解析を進めています。
実用問題に見られる空気の流れはほぼすべてが不規則な動きをする“乱流”で、その仕組みは、ほとんど解明されていません。そこが流体研究の難しさであり、わずかでも解明できるよう、スーパーコンピュータを用いた解析を進めているわけです。具体的には、車両周りの空間を“計算格子”という網の目状の格子に区切り、格子の各点で流体の式を解いていきます。計算以外の手法による研究とともに、スーパーコンピュータの発達に応じて、鉄道車両周りの空気の流れについても、少しずつ解明されてきました。ランダムに見える乱流の中に組織的構造をもつ大きな渦が発生している。なぜ、このような現象が起こるのか。目に見えないものを解明していくおもしろさが、流体研究にはあります。
コラム:スパコンの活用について
スーパーコンピューターを活用した
大規模解析を研究の切り札に
鉄道総研のスーパーコンピューターには、“究”という名がつけられています。全体の総合処理能力はこれまでの約10倍に相当する114.7TFlopsを実現しています。新しいスーパーコンピューターを活用することで、これまで実現不可能だったシミュレーションも行えるようになりました。例えば、鉄道総研の小型風洞クラスであれば、シミュレーションでも解析可能です。ここ数年は、大型低騒音風洞施設を再現する研究にも取り組んでおり、それほど遠くない未来にはある程度の解析は実現することでしょう。
鉄道総研には世界有数の実験設備があり、大型低騒音風洞施設は流体研究の要となっています。対して、大規模流体シミュレーションの研究はまだまだ過渡期にあると言えます。そのため、スーパーコンピューターを活用した大規模流体シミュレーションの研究技術を向上させていき、風洞施設に匹敵するレベルに引き上げることを当面の目標としています。その上で、シミュレーションと実験設備を融合させて、鉄道分野における流体問題に貢献できたらと強く願っています。