松村 周

-先輩職員インタビュー-

プロフィール
松村 周
集電管理研究室 主任研究員、画像解析研究室 主任研究員
2009年入社

電気工作からプログラムまで
ものづくりの醍醐味を感じながら架線検査の自動化を進める

私は2009年の入社以来、集電管理研究室に在籍し、「電車線の非接触測定」をテーマに研究に取り組んできました。電車線(架線)は、車両の屋根に搭載されたパンタグラフを通じて車両に電気を供給するための設備で、検査員が線路沿いを歩きながら目視で検査を行ったり、手作業で測定を行ったりしています。このような検査・測定を自動化するためには、架線の非接触測定が重要な技術となります。

本研究は、架線検査の機械化・自動化を目的に始まったもの。架線の位置を測定すべく、カメラとレーザー装置を組み合わせた装置の開発を行い、引き続き目視検査の自動化に向けた研究を進めています。特に近年は、画像処理技術が急速に進歩したことが、追い風となっています。

学生時代は電気電子工学を専攻し、モータドライブシステムから電源側に流れるノイズを抑えるフィルタの研究に従事してきました。元来ものづくりが好きだったことから、就職活動ではメーカーを中心に検討。先輩が勤務している鉄道総研の見学会に参加したとき、「自ら試作機を設計・組み立てることも多く、ものづくりの醍醐味を感じられる仕事」だと聞いたことが、入社の決め手となっています。

実際、入社当初から取り組んでいる「電車線の非接触測定」では、電気工作やプログラムを自分で行って動作テストをする機会が多くあります。専門外の画像処理に関する知識を入社後に学び、試行錯誤を繰り返しながら習得した技術を本研究に取り込んでいくので、常に新しい学びや発見もあります。開発に着手してから10年あまり。今後は機械学習の知識を学びながら、異常検出の精度を高めていく予定です。

「電車線の非接触測定」の研究を実用化し
メンテナンス作業の負担軽減につなげていきたい

「電車線の非接触測定」の研究に取り組む一方、入社6~7年目にはJR東海への出向も経験しました。出向中、実際に現場で架線のメンテナンスに携わることができたのは、とても貴重な経験だったと思います。日中に線路沿いを歩いて検査を行ったり、終電後に架線を至近距離で検査したりする機会も多くありました。日頃、鉄道総研で研究に従事しているときは、どうしても理想を追いかけてしまいがちでしたが、現場を経験したことで、実用化を意識した視点が高まったように思います。すべてを自動化するのではなく、「人間が得意なこと」と「機械が得意なこと」を理解した上で、人間の判断を上手にサポートしたり、簡単な判断を機械に任せたりするなど、棲み分けが必要なのだと思いました。

また、鉄道総研にはさまざまな分野の研究室があり、それぞれ高い専門性をもって技術開発に取り組んでいます。各研究室が独立しているため、「研究室間の交流があまりないのでは」と感じる方もいらっしゃるかもしれません。実際はその逆で、異なる分野の研究員が集結しているからこそ、その専門性を共有する機会もたくさんあります。私自身、研究で画像処理や機械学習の知識が必要だったため、画像・IT研究室を兼務し、同研究室の先輩に教えを請うことが何度もあります。このように、研究者同士が気軽に声を掛け合い、意見を交わしており、これは鉄道総研に根付いた風土なのだと思います。

鉄道の地上設備のメンテナンスは多くの場合、終電後に行います。そして、人間が長い距離を歩きながら、一つひとつ安全性を確かめることも珍しくありません。私は本研究を通じて、そういった作業の負担を少しでも減らしていけたらと願っています。JR東海で得た知見を活かして、自動化に適したものとそうでないものを的確に判断しながら、完成度を高めていきたいですね。近い将来、本研究が実用化し、多くの鉄道事業者に導入していただけたなら、これほど嬉しいことはありません。

コラム:「UICグローバルリサーチ&イノベーション賞」について

●鉄道輸送を世界的レベルで促進するために研究成果が認められ、国際鉄道連合から表彰を受ける●

2018年、私が鉄道総研に入社して10年目のこと。これまで取り組んできた「電車線の非接触測定」の研究成果がUIC(国際鉄道連合)に評価され、「UICグローバルリサーチ&イノベーション賞」を受賞しました。この賞は、鉄道輸送を世界的レベルで促進するために、UICの国際鉄道研究委員会が創設したもの。本研究は開発途中ではありますが、画像撮影や三次元による位置測定の技術が認められての受賞でした。実は受賞の知らせを聞いたのは受賞式の10日ほど前で、慌てて飛行機のチケットを取り、表彰式が開催されるパリに飛んだのをよく覚えています。

入社以来、一つのテーマに打ち込み、一進一退を繰り返しながらここまで歩んできました。なかなか成果が出ず、忸怩たる思いをしたこともあります。特に苦労したのは「画像処理」で、時間や天候などにより外的環境が刻一刻と変化する屋外で、安定して測定結果を出すのが非常に難しかったですね。開発着手から約10年が経ち、ようやく完成形に近づいて来たころに受賞の知らせを聞いたので、感慨深い気持ちになりました。

人間はあらゆる環境の中で対象となる物を補正して見る機能をもっていますが、それを自動で行うにはどうすればいいのか——。複雑な脳の機能と、ベテラン検査員の経験に基づく検査能力を機械に反映させるのは非常に難しく、これが今後の課題となっています。

基礎研究から実用化に至る道のりは長く、これからも数多くの課題を乗り越えていく必要があることでしょう。それでも、新たな知識を吸収し、新しい技術を開発するのはとても楽しいですね。学生時代の専門以外の知識も組み合わせながら研究に取り組む醍醐味を、これから入社する皆さんにも味わっていただけたら嬉しいです。