田中 隆之

-先輩職員インタビュー-

プロフィール
田中 隆之
研究開発推進部(JR) 主査、車両力学研究室 主任研究員
2011年入社

素粒子物理学を専攻していた私が
鉄道総研に入社した理由

学生時代の専攻は素粒子物理学で、ノーベル物理学賞を受賞した梶田先生が率いる実験プロジェクトに参加し、素粒子の研究に取り組んできました。有意義な学生生活を送っていたものの、ある時ふと、こう思いました。「物理現象を解明し、社会に役立てる段階に到達するまで、膨大な時間がかかる」と。できれば、何かしらの形で社会に貢献したい。そのような思いが芽生え、企業への就職を検討するようになりました。旅行が好きで、鉄道や航空機、ロケットなどの輸送機械に興味があったことから、「輸送機械に関する研究に携わる」という軸を定め、複数の研究機関を検討しました。鉄道総研を第一志望に定めたのは、実験とシミュレーションの双方を採り入れた研究を行っている点に惹かれたから。その後、国立の研究所を訪問して、各研究室を見学。素粒子の研究を直接活かせる研究室はありませんでしたが、試験機器やシミュレーションツールに魅力を感じ、現在所属している車両力学研究室を志望しました。

車両力学研究室は、真っすぐなレール上を走行するような状態に加え、「曲線通過時」「横風が吹く」「地震が発生する」など、さまざまな外的要因が発生したとき、どの程度、安全に走ることができるのか。そのような観点から、車両運動メカニズムの解明のための研究や、走行安全性評価手法の提案を行っています。これらの研究を行うため、車両挙動の模擬試験や走行試験を行っているほか、シミュレーションモデルを構築して、各種現象の解明に挑んでいます。

私が入社してすぐに担当した研究テーマは、台車旋回性能試験装置の開発・制作です。実物大の車両や台車を設置可能な試験装置を製作。台車を旋回させて「曲線走行中の台車の動き」を再現したほか、シミュレーションモデルによる検証も行いました。この研究の目的は、車両が曲線を走っていく際の安全性を評価する手法の確立であり、さまざまな条件で車両の旋回抵抗力を求めていきました。その後、この装置は鉄道事業者やメーカーさんからの受託試験に活用頂いております。

さまざまな課題を抱える鉄道事業者に貢献したい
この思いが、最大のモチベーションに

上述の研究に加えて、既存の計算ツールの改良にも携わりました。この研究では、既存の計算式を見直し、「鉄道台車のモーメントに着目した横圧推定式」を提案しました。計算式の構築にあたっては、前述の台車旋回性能試験装置を用いた試験や、走行試験により明らかになった知見を盛り込むことで汎用性を向上するとともに、事業者が使いやすい形で定式化することを心掛けました。

その後、渡米し、アイオワ大学で2年間、共同研究に携わりました。2019年の秋に帰国し、現在は、共同研究で開発したツールの検証試験を行うための準備を行っています。
私たち鉄道総研の研究員はそれぞれ異なる研究室に属していますが、その目的は一つ。新しい技術の開発や改良によって、鉄道業界に貢献していくことにあります。実際、鉄道総研の職員はもちろん、研究所外の関連機関の協力を仰ぐ機会も多く、鉄道事業者の協力のもと、車両を実際の線路で走らせることもあります。鉄道事業者を始め、研究所外の方々と協力して開発に取り組むのは非常に刺激的です。特に鉄道事業者の方々との交流が深まれば深まるほど、「この人達のために頑張ろう」「一日も早く研究の成果を打ち出したい」とモチベーションが高まっていくのを感じます。

今、就職活動に取り組んでいる皆さんの中には、私と同じように鉄道とは関連のない研究に携わっている方もいることと思います。たとえ関係のない分野であっても、学生の皆さんが培ってきた「研究に取り組む姿勢」はきっと、鉄道総研で役立てることができるでしょう。多くの方々に鉄道総研への入社を検討していただきたいですし、私も未来の後輩たちに、鉄道総研の研究員として身につけてきた「マインド」を、しっかりと授けていきたいですね。

コラム:海外出向について

●アイオワ大学に出向し、新しい計算ツールの開発に取り組む●

鉄道総研には、海外の研究機関や大学との共同研究を通じた出向制度があります。以前、ある学会で知り合った先生がアメリカのアイオワ大学に在籍しており、この先生との共同研究に取り組むため、自ら手を上げてアイオワ大学に2年間出向しました。
出向にあたり、多様な車輪・レール間の接触状態に対応した計算ツールを開発するというテーマを立て、出向先で先生と協力しながら、課題解決の方法について探っていきました。既存の計算ツールや解析手法に改良を加えることで、結果として効率的な計算ツールを開発することができました。

また、アイオワ大学では鉄道車両だけではなく、自動車に関する研究を行っていました。タイヤと土やアスファルトとの接触に関する豊富な研究成果があり、これらの知見も援用して、計算ツール開発に取り組みました。アイオワ大学での研究成果の検証や、深度化を行うために、帰国後は所内の試験装置を活用した実験を行う準備を進めています。

鉄道総研は研究員同士の交流が盛んで、気軽に声を掛け合い、ディスカッションをする文化があります。アイオワ大学も同様で、鉄道総研以上に活発に議論を交わしています。研究者同士はもちろん、学生に対しても対等な立場で疑問を投げかけ、意見を交わすのは非常に良い習慣だと感じました。このようなディスカッションの文化を始め、アイオワ大学で学んだことがたくさんあるので、ぜひ、鉄道総研でも積極的に採り入れていきたいと考えています。