セメントと高分子材料を用いた劣化バラストの沈下対策工法

 バラスト軌道は、長期にわたって列車の走行やつき固め作業等が繰り返されることで、砕石(バラスト)が経年劣化により破砕・細粒化して劣化します1)。劣化の進行によってバラストの排水性が低下するため、雨水等の浸入によってバラスト内の水分量が多くなると、バラストの強度が低下します。これにより、軌道の沈下が増大するとともに、つき固め作業の頻度が高くなり、保守コストも増大します。特に、まくらぎ下のバラストの細粒分が泥土となって、列車通過時に吹き出す噴泥現象が生じると(図1)、軌道の沈下が加速するため、そのような箇所では新品のバラストに交換する必要があります。一方、バラスト交換工事の施工コストは比較的高いため、劣化したバラストの沈下を低コストで抑制する補修方法が求められていました。そこで、つき固め作業時にバラストを安定処理する「低強度安定処理工法」を開発しました2)。本工法で使用する補修材は、興和化成株式会社より購入可能です。

低強度安定処理工法の特徴

     
  • 補修材は、主に橋脚のひび割れの補修などに用いられている「超速硬セメント」および泥土を固化するのに用いられる「高分子材料」を混合したものを使用します(図2)。
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  • 補修直後の段階では、主に高分子材料によって軌道の沈下を抑制する作用が働きます。さらに、2時間程度で超速硬セメントの軌道沈下の抑制作用も働きはじめ、バラストの支持力が向上します(図3)。
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  • 冠水などの災害により外部から土砂が混入したバラストの沈下対策としても活用できます。
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  • 本工法を繰り返し実施することで、軌道の沈下抑制効果がさらに向上します。
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  • 本工法の施工費はバラスト交換工事の1割程度です。そのため、バラスト交換工事を直ちに実施できない場合に軌道の沈下を低コストで抑制することができます。

低強度安定処理工法の施工方法

 施工の手順は、以下の通りです。

     
  1. タイタンパによるつき固め補修時にまくらぎ1本当たり8箇所に補修材を投入する。
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  3. 通常と同様のつき固め作業により補修材と劣化したバラストを混合する(図4)。

 本工法におけるつき固め作業には、ハンドタイタンパ、マルチプルタイタンパ、バックホウタイタンパを用いることが可能です。ハンドタイタンパで施工する場合、つき固める位置のバラストをまくらぎ下まで掘削して補修材を投入します。また、マルチプルタイタンパおよびバックホウタイタンパによる施工の場合、補修材を投入するためのバラストの掘削は不要です(図5)。

 本工法の施工後に、再度つき固め作業を行うことが可能です。噴泥が生じたバラスト区間において、十分な軌道の沈下抑制効果が得られることを確認しています(図6、図7)。

参考文献

  1. 中村貴久、桃谷尚嗣、木次谷一平:バラストの破砕・細粒化メカニズムの解明と余寿命予測方法の提案、鉄道総研報告、Vol.35、No.4、pp.35-40、2021.
  2. KAGEYAMA, T. NAKAMURA, T. KIJIYA, I. AKAGI, H. and SAITO, R.: Development on an ultra-low strength stabilization method for fouled ballasted tracks, Transportation Geotechnics, International Society for Soil Mechanics and Geotechnical Engineering, ELSEVIER, A-2208, 2022.