高温超電導材の製造技術
1.概要
多くの超電導体は磁石になる性質を持っています。この性質を活かして、原料粉末の混合比率や粒径、焼成条件等をパラメーターとして、応用機器に最も適合する超電導材料の開発を進めています(図1、2)。物質としては、永久磁石の十数倍もの高い磁場を発生させることができるレアアース(RE)系銅酸化物と、均一な超電導特性を持つMgB2などを対象としています。
2.RE系銅酸化物バルク磁石
RE系銅酸化物バルク磁石には、液体窒素温度(77 K)で使用可能で高磁場を発生させることができるという特長があります。しかし、放熱特性が低いために高磁場を着磁できなかったり、機械強度が低いために着磁する際に破壊されてしまうという課題がありました。
これらの放熱特性と機械強度の問題を解決するため、超電導バルク磁石に金属や樹脂を浸み込ませる含浸技術を適用しました(図3、4)。金属含浸によって超電導バルク磁石の放熱特性と機械強度が向上し、17 Tを超える高磁場の発生に成功しました(図5)。この磁場はバルクとしては当時世界最高値でした。この成果はNature誌に掲載され、磁気分離や超電導モーター等、高磁場応用分野への適用が期待されています。
3.MgB2バルク磁石
液体水素温度(20 K)で使用可能かつ低コスト化が期待できるMgB2バルク磁石を開発しています。
MgB2バルク磁石を試作し、最大で100 mmφの大型MgB2バルク磁石の作製に成功しました(図6)。発生磁場の位置依存性を測定した結果、RE系バルク磁石では磁場分布が四角形状に歪んでいるのに対して、 MgB2バルク磁石の磁場分布は理想的な円状であり、均一な超電導特性を持っていることが分かりました(図7)。MgB2バルク磁石は精密な磁場制御を必要とする機器への応用が期待されています。
4.小型超電導マグネット
市販の超電導マグネットは、Nb-TiやNb3Snなどの低温超電導線材で作られているため、液体ヘリウム温度(4.2 K)までの冷却が必要となり、非常に大型な装置となります。そこで、リング状に加工したRE系銅酸化物バルクを用いて、液体窒素温度(77 K)で使用できる小型超電導マグネットを開発しました(図8)。着磁特性を評価するために、小型超電導マグネットと市販の超電導マグネットのそれぞれで供試体への着磁試験を行いました。その結果、ほぼ同じ磁場分布特性が得られ、小型超電導マグネットは市販の超電導マグネットと同様の着磁が可能であることが確認されました。この小型超電導マグネットは、材料分析器をはじめ幅広い磁場発生分野での活用が可能です。
参考文献
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