横風による車両の転覆に関する研究

1.はじめに

近年、鉄道車両は、騒音・振動等の環境問題や省エネルギーの観点から軽量化が進み、また走行速度の向上と相まって、横風に対して不利な状況にさらされています。強風時の走行安全性を保ちつつ効率的な運転規制を行うためには、車両の転覆限界風速(風上側の輪重がゼロになる風速)を精度よく推定することが必要です。
現在、鉄道総研が転覆限界風速の評価に用いている総研詳細式では、変動量である左右振動加速度や風向角などが転覆に対して最も厳しくなる条件を前提としているため、評価結果が経験的に推定される風速よりも低くなる傾向があり、より実態に即した評価が求められていました。

2.開発した評価手法

左右振動加速度の実測値を考慮した転覆限界風速の評価方法を考案しました。具体的には、一律の一次式で与える現行の仮定に代えて、実測データのピーク値を概ね包含するような一次式を仮定することにより(図1)、現行の仮定を使用した場合と比較して2~3m/s程度転覆限界風速が高く計算されるケースがあることが分かりました。
また、左右振動加速度の発生頻度を分析することによって、転覆限界風速の確率的な解釈が可能となりました(図2)。転覆限界風速の計算結果を、平均的(確定的)な部分と変動的(確率的)な部分に分けて表記することにより、想定する発生確率に応じた安全余裕を見込んだ転覆限界風速を算出することができ、走行安全性と輸送安定性のバランスに配慮した規制風速の設定が可能となりました。

参考文献

  1. 日比野有、金元啓幸:左右振動加速度の実測値を考慮した転覆限界風速評価、鉄道総研報告、Vol.33、No.3、pp.11-16、2019